こんにちは、 ゆかねぇ (@officeyuka) です。
平均賃金は労働者が1日あたりに得た平均的な賃金単価のことですが、その計算方法や用いられる場面などは労働基準法で詳細に定められています。
とはいえ、条文の文言は難解ですし、いつどんな場面で平均賃金を用いるのか探し出すのも一苦労。
そこでこの記事では、平均賃金について知りたい方のために平均賃金のすべてを隅から隅までわかりやすく解説します。
平均賃金を計算する際に前提となる「賃金」の定義については、次の記事で解説していますので合わせてお読みください。
平均賃金とは?
まず最初に、そもそも平均賃金とはどのような賃金なのでしょうか。
労働基準法第12条 には、平均賃金について次のように書かれています。
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。
e-Govより引用
法律の表現上このようになってしまうのでしょうが、いやほんと、わざとじゃないかと思うぐらいややこしい言い回しです。
ひとまず、計算式をもう少しわかりやすくしてみます。
非常に(非常に)ざっくり言うと、ある労働者の3ヶ月分の賃金総額 を 3ヶ月間の暦日数 で割ると出てくる1日分の賃金が平均賃金ということです。
(計算時の詳細なルールについては、後述の平均賃金の計算方法で解説します。)
なぜ平均賃金が必要?
では、なぜ平均賃金の規定が必要なのでしょうか。
通常、賃金は労働の対償として支払われるものですが、労働基準法ではいくつかの事由(算定事由)が発生したときに、労働者に金銭を支払わなければならないと規定しています。
その際、もし会社側が好き勝手に金額を決めてしまうことができたら、労働者側は生活に困ってしまう可能性があります。
反対に、労働者側が不当に高い金額を請求したりした場合には、今度は会社側が困ることになります。
このような恣意的な決定を防ぐために、平均賃金の規定が必要というわけなのです。
平均賃金を用いるもの
平均賃金が必要な理由でもお伝えしたとおり、労働基準法では平均賃金を用いて算定しなければならないものを規定しています。
次の表にまとめました。
平均賃金を用いるもの | 算定事由発生日 |
①解雇予告手当の1日分の単価 | 労働者に解雇の通告をした日 |
②休業手当の1日分の単価 | 休業の日(2日以上にわたる場合は最初の休業日) |
③年次有給休暇の1日分の賃金 | 休暇を与えた日(2日以上にわたる場合は最初の休暇日) |
④災害補償の1日分の単価 | 死傷の原因たる事故発生日 又は 診断によって疾病の発生が確定した日 |
⑤就業規則による減給の制裁の1日分の単価 | 制裁の意思表示が相手方に到達した日 |
算定事由発生日とは、文字通り「平均賃金を算定しなければならない事由が発生した日」であり、平均賃金を計算する際の基準となる重要な日です。
算定事由発生日を間違えると、平均賃金の額もまったく変わってしまう可能性もあるので注意が必要です。
平均賃金の計算方法
それではここから、実際に平均賃金の計算方法をご説明していきます。
原則
まず、平均賃金の原則的な計算方法から。
改めて冒頭の計算式をお出しします。
この計算式を頭に置きながら読み進めてください。
「以前」はいつから?
計算式の分母・分子両方にある算定事由発生日以前の「以前」ですが、これは算定事由発生日「前」と解されています。
つまり、算定事由発生日の「前日」からさかのぼって3ヶ月間を計算するということです。
総日数の取り扱い
計算式の分母にある「総日数」は「総暦日数」のことです。
そのため、会社の休日などもすべて含みますし、起算日によって日数が変わることにも注意が必要です。
端数処理の方法
計算して算出された平均賃金は、銭位未満(小数点第2位未満)を切り捨てます。
といっても、「銭」という単位はなかなか使うものではありませんから、具体例を挙げて説明します。
- 月給:35万円(賃金総額:350,000円×3ヶ月=1,050,000円)
- 算定期間:4/1〜6/30(総日数:91日)
上記の例を計算式に当てはめてみると…。
1,050,000円÷91日=11,538.46153…≒11,538円46銭
ということになります。
最低保障額
賃金の全部又は一部が、日、時間、出来高払制、その他の請負制(日給制等)によって定められた場合には、平均賃金について次の額が最低保障されます。
①賃金の全部が日給制等によって定められた場合
賃金の全部が、日、時間、出来高払制、その他の請負制(日給制等)によって定められた場合には、次の計算式で算出された額が最低保障されます。
ここでは、総暦日数ではなく労働した日数で割ることに注意が必要です。
②賃金の一部が月給制等によって定められた場合
賃金の一部が、月、週その他一定の期間(月給制等)によって定められた場合には、次の計算式で算出された額が最低保障されます。
つまり、給与の計算方法そのものが月給制等と日給制等を併用している場合には、平均賃金の最低保障額も一旦別々で計算した後に合算する、ということです。
また、最低保障額の計算に共通するルールとして、原則的な計算方法で計算した平均賃金額の方が高ければ、そちらの原則額を平均賃金として用います。
最低保障額はあくまでも「最低」とご理解ください。
賃金締切日がある場合
原則の場合 も 最低保障額を計算する場合 も、賃金支払日がある場合は直前の賃金支払日から起算し、賃金の総額と総日数を計算します。
どういうことか、わかりやすく図にして具体例を挙げてみます。
たとえば、毎月末日が賃金締切日の会社で6/10 に算定事由が発生したとします。
この場合、原則で考えれば 6/9 から3ヶ月さかのぼって平均賃金を計算することになりますが、計算も煩雑ですし間違いも起こりやすいです。
そのため、直前の賃金締切日である 5/31 を起算点として3ヶ月さかのぼって良いと定められており、実際にはこの規定に基づいて平均賃金を計算することがほとんどです。
ただ、いくつか注意すべき点があります。
賃金締切日当日に算定事由が発生した場合
図の例でいうと、たとえば 5/31 に算定事由が発生した場合は、さらにさかのぼって4/30 から起算します。
原則の計算方法で取り扱ったように「以前=前」のため、当日は含まれないのです。
賃金ごとに賃金締切日が異なる場合
基本給は末日締切、各種手当は20日締切といったように、賃金ごとに賃金締切日が異なる場合もあるかと思います。
この場合は、賃金ごとの賃金締切日が直前の賃金締切日となります。
一見ややこしそうに思えますが、平均賃金を計算する際はそれぞれの賃金締切日を起算点とした方が計算しやすいです。
計算時に控除する期間と除外する賃金
平均賃金を計算する際には、次の期間や賃金は計算の基礎から除きます。
控除する期間
次のいずれかに該当する期間は、その日数 とその期間中の賃金額 の両方を、総日数(分母)・賃金総額(分子)それぞれから控除します。
- 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
- 産前産後の女性が法65条の規定によって休業(産前産後休業)した期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
- 試みの使用期間
なぜ控除するかというと、控除しなければ平均賃金の額が不当に低くなる可能性があるためです。
また、次の期間は控除期間に含まれていないので注意が必要です。
- 通勤災害によって休業した期間
- 生理休暇を取得した期間
- 子の看護休暇を取得した期間
除外する賃金
次のいずれかに該当する賃金は、賃金総額(分子)から除外します。
- 臨時に支払われた賃金
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 通過以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属さないもの
これらの賃金をなぜ除外するかというと、先程とは反対に除外しなければ平均賃金の額が不当に高くなる可能性があるためです。
特別の規定
次の者の場合には、特別の規定が設けられています。
雇い入れ後3ヶ月に満たない者
雇い入れ後3ヶ月に満たない者については、その長さに関係なく雇い入れ後の期間に基づいて計算します。
ただしこの場合でも、賃金締切日があれば直前の賃金締切日から起算します。
日々雇い入れられる者
日々雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とします。
どの方法によっても算定できない場合
ここまで見てきたどの方法によっても平均賃金を算定できない場合は、厚生労働大臣の定めるところによります。
たとえば、本来控除期間である試みの使用期間中に算定事由が発生した場合 などです。
まとめ
賃金に関することは労働条件の中でも非常に重要なため、労働基準法で様々な規定が置かれています。
これらの規定は、労働者だけではなく会社をも守る大切なものです。
じゅうぶんに理解し、正しく計算するために、この記事をご活用いただければと思います。
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