こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
会社が毎月納める社会保険料を計算するために必要な標準報酬月額は、一度決定してしまえばずっと同じ、というわけではありません。
入社時 や 給与額が大幅に変動したとき にその都度改定するのはもちろん、実際の報酬額と大きくかけ離れないように毎年1回定期的に見直され、新たに決定されます。
これを標準報酬月額の定時決定と言い、最終的に算定基礎届を提出することになりますが、基本的には社会保険に加入している全従業員が対象となるうえ、引っ掛けポイントも多く大変です。
そこでこの記事では、標準報酬月額の定時決定(算定基礎届)について、具体例や表を交えながらわかりやすく解説していきます。
関連記事:標準報酬月額とは?社会保険料計算の基礎となる標準報酬月額についてわかりやすく解説
定時決定の対象者
標準報酬月額の定時決定は、原則として7月1日現在において事業所に使用されるすべての被保険者を対象として行われます。
ただし!次に該当する方々は、その年の定時決定の対象とはなりません。
- 6月1日から7月1日までの間に被保険者資格を取得した方
- 7月から9月までの間に標準報酬月額の改定(随時改定、育児休業終了時改定、産前産後休業終了時改定)が行われ、または行われるべき方
原則的な定時決定の算定方法
それでは、いよいよここから 標準報酬月額 を定時決定するための算定方法について見ていきます。
まず、原則的な算定方法は次のような順で進めます。
- 4月、5月、6月に実際に支払われた報酬を用いる
- 3ヶ月のうち、支払われた報酬の対象となった日数(報酬支払基礎日数)が17日未満の月は除く
- 報酬支払基礎日数が17日以上の月の報酬だけを合算し、その月数で割った額(報酬の平均額)を 報酬月額 とする
- 報酬月額 を標準報酬月額等級表にあてはめ、標準報酬月額 を決定する。
順番に解説していきますね。
① 4月、5月、6月に実際に支払われた報酬
実は、この部分がもっとも勘違いの多いところかもしれません。
法律の条文がわかりにくいのもありますが、標準報酬月額の定時決定に用いるのは4月、5月、6月に実際に支払われた報酬額です。
具体的に「毎月末日締、翌月10日払い」で給与計算をしている例で見てみましょう。
図で見ると、たとえば3月に働いた分のお給料が4月10日に支払われています。
このときに「3月分だから関係ない」ではなく「4月に支払われているから算定に含める」となります。
考えてみれば「毎月15日締、当月25日払い」「毎月25日締、翌月5日払い」のように、会社によってお給料の締め日や支払日はバラバラですから、「支払日で計算」に統一するのがもっともわかりやすいですよね。
② 報酬支払基礎日数とは
報酬支払基礎日数 とは、報酬を支払う対象となった日数のことを言い、報酬支払基礎日数が17日未満の月は定時決定の計算から除きます。
報酬支払基礎日数を数えるにあたっては、給与形態によって数え方が違うので注意が必要です。
賃金形態 | 報酬支払基礎日数 |
---|---|
月給制 | 報酬の支払対象期間(末締めなら1日〜末日)の暦日数 |
日給月給制 (月給者で、欠勤日数に応じて報酬が差し引かれる場合) |
就業規則、給与規定等に基づき事業所が定めた日数から当該欠勤日数を控除した日数(+有給休暇取得日) |
日給制・時給制 | 支払対象期間の出勤日数(+有給休暇取得日) |
月給制は暦どおりの日数、日給制・時給制は出勤した日数をそのまま数えれば良いので、そんなに難しくはないでしょう。
少し「?」となるのが日給月給制ですが、いわゆる「欠勤控除」がされるものとお考えください。
そして日給月給制の場合、たとえば「ある月の所定労働日数(事業所が定めた日数)が21日、欠勤が2日、有給休暇を1日取得した」とすると、
21日-2日+1日=20日
が、その月の報酬支払基礎日数となります。
③ 実際の計算方法
では、実際に計算してみましょう。
繰り返しになりますが、定時決定では4〜6月に実際に支払われた報酬のうち、報酬支払基礎日数が17日以上の月だけを合算し、その月数で割って報酬月額を出します。
ここは文章でお伝えするより実際の数字を見た方がわかりやすいので、具体例をあげて解説していきます。
例① 基本パターン
定時決定の基本的なパターンは次のようになります。
給与形態に関わらず、報酬支払基礎日数が17日以上の月であればすべて合算対象になります。
また、計算した報酬月額に端数が出た場合は、1円未満を四捨五入します。
「報酬に何が含まれるのか?」については次の記事を参考にしてください。
例② 欠勤控除がある場合
続いて、日給月給制などで欠勤控除があった場合は次のようになります。
図を見ると、6月に実際に支払われた報酬の元となった報酬支払基礎日数は、「15日」と17日未満になっています。
この場合、6月に実際に支払われた報酬は定時決定の計算に含めず、4月と5月の2ヶ月分だけで報酬月額を出し、標準報酬月額を決定します。
ちなみに、日給制や時給制で出勤日数が17日未満の月がある場合も、こちらの②の方法で定時決定します。
特殊な定時決定の算定方法
鋭い!さすがです。
ここまでは「17日」を基準に、原則的な定時決定の計算方法を見てきました。
ですが、実際には「出勤日数がたまたま少なかった」や「長期入院で出勤0日」ということもあれば、そもそも雇用契約上の労働時間が短い場合もあります。
そこでここからは、原則的な方法で定時決定できない場合の算定方法をいくつかご紹介していきます。
① 3ヶ月とも報酬支払基礎日数が17日未満の場合
通常の正社員の方でも、「たまたま定時決定するべき3ヶ月間の報酬支払基礎日数がすべて17日未満だった」「病気や育児休業で1日も出勤しておらず無給」ということはありえます。
この場合には、「保険者算定」と言って従前の(今までの)標準報酬月額で決定されます。
② 短時間就労者の場合
短時間就労者 とは、いわゆる正社員と比べて所定労働時間の少ない方のことを言います。
この方たちは一般的に労働日数が少なく、労働時間も短いため、定時決定は次のように行います。
報酬支払基礎日数 | 定時決定の算定方法 |
---|---|
① 3ヶ月とも17日以上ある場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額により算出(原則どおり) |
② 1ヶ月でも17日以上ある場合 | 17日以上の月の報酬月額の平均額により算出(原則どおり) |
③ 3ヶ月とも15日以上17日未満の場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額により算出 |
④ 1ヶ月又は2ヶ月は15日以上17日未満の場合 (ただし、②の場合を除く) | 15日以上17日未満の月の平均額により算出 |
⑤ 3ヶ月とも15日未満の場合 | 今までの標準報酬月額で決定(保険者算定) |
表を見ていただくとおわかりでしょうが、基準となる報酬支払基礎日数が「17日」と「15日」の2段階となっています。
ただ、あくまでも原則は「17日」が基準ですので、1ヶ月でも報酬支払基礎日数が17日以上の月があれば、原則どおりの計算方法となりますので注意が必要です。
せっかくですので、ここも具体例を出します。
この場合は短時間就労者であり、「15日以上17日未満」の月が2ヶ月ありますから、その2ヶ月の報酬を用いて定時決定を行う、ということになります。
③ 4分の3基準を満たさない短時間労働者である被保険者の場合
「4分の3基準を満たさない短時間労働者である被保険者」とは、いわゆる正社員と比べて所定労働日数や所定労働時間が4分の3未満だが、別の5つの要件を満たしたために被保険者となった方のことです。
関連記事:社会保険の被保険者になる人ならない人。加入要件や具体例を隅々まで解説
この場合、むしろ基準は①の短時間就労者の方よりシンプルになり、原則的な定時決定の算定方法の「17日」をすべて「11日」に読み変えればOKです。
こちらも具体例を出します。
実は、この例の報酬支払基礎日数は短時間就労者と同じです。
しかし、所定労働日数や所定労働時間が短時間就労者よりも短い方々のため、報酬支払基礎日数が「11日」の5月支払分も計算に含める、ということになります。
定時決定の有効期間
さて、無事定時決定された 標準報酬月額 の有効期間は、その年の9月から翌年の8月までです。
ただし、この期間中に給与の額が大幅に変わったり、育児休業から復帰するなどがあれば、その都度標準報酬月額の改定が必要になります。
定時決定の手続き
標準報酬月額の定時決定は、いわゆる算定基礎届を管轄の年金事務所または健康保険組合に提出することで行います。
手続き時期
定時決定の手続きは、毎年7月1日から7月10日までに行います。
手続期間がそんなに長くないので、5月分の報酬が6月末近くに支払われる場合などは事前の準備が欠かせません。
届出用紙
定時決定の際に提出する用紙は次のものです。
随分と長ったらしい名前ですが、「算定基礎届」と覚えておいていただければけっこうです。
どんな用紙か、ちょっと見てみましょう。
実際には、この用紙は毎年6月に入る頃に、管轄の年金事務所から会社あてに送られてきます(地域によって差はありますが)。
その際、以前から在籍されている方であれば、お名前や生年月日・従前の標準報酬月額などはすでに印字されていますのでご安心ください。
まとめ
今は政府もインターネットを通じた電子申請を推奨していますし、給与計算ソフトなどで簡単に定時決定に関する書類が作成できたりもします。
それは非常に素晴らしいことですし、これからもどんどん発展していってほしいです。
ですがそんな時代だからこそ、「仕組み」を理解しておくことが今後むしろ大切になっていくのではないかと私は思っています。
この記事を、少しでも仕組みの理解に役立てていただければと思います。
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