「労働条件の明示」はいつ、何を、どのようにすればいい?3つのポイントから解説

こんにちは、渡邊 由佳(わたなべ ゆか)です。

労働条件ってどこまで従業員に伝えないといけないの?

賃金や労働時間といった労働条件は、労働者に対して 明示(はっきり示す) しなければならないと労働基準法で定められています。

そして、明示しなければならない労働条件や明示方法なども法令で定められているため、 「守らなければと思うけどわかりづらい」といった側面が。

そこでこの記事では、労働条件の明示義務について①いつ ②何を ③どのような方法で行わなければならないのかという3つのポイントからわかりやすく解説します。

【ポイント①】 労働条件はいつ明示する?

まず、労働条件の明示時期ですが、労働条件は労働契約を締結する際に労働者に明示しなければなりません。

「実際に仕事を始めてもらってからでは遅い」ということは言うまでもないのですが、他にもいくつか注意点があります。

注意点① 「労務の提供までに明示」ではダメ

「労務の提供」とは、要するに「働き始めてもらう日」のことです。

人を雇うときは、たいてい雇用契約を結んでから実際に働いてもらうまで日数がありますよね。

その際、「契約だけして労働条件は働いてもらうまでに明示」だと、労働者は不利な労働条件が示されても「NO」と言いづらく、結果的に不利益を被ることになりかねません。

労働者保護の観点から、あくまでも労働契約の締結と同時に労働条件を明示する必要があります。

注意点② 労働基準法上は「募集時の明示」は義務ではない

ハローワークの求人票やインターネット上の求人サイトなどを見ると、労働条件は必ず記載されています。

ですが、実は「募集時の労働条件の明示」は労働基準法上の義務ではありません

ではどこに書かれているかというと、職業安定法という法律に記載があります。

また、職業安定法に定められている「募集時に明示しなければならない事項」は、労働基準法上の「労働条件の明示事項」とは少し異なるので注意が必要です。

募集時の明示事項については以下の記事で詳しく解説していますので参考になさってください。

募集時の労働条件はいつ、何を、どのように明示する?3つのポイントから解説

【ポイント②】 労働条件は何を明示する?

次に、明示しなければならない労働条件ですが、これには絶対的明示事項相対的明示事項の2種類があります。

絶対的明示事項 とは必ず明示しなければいけない事項のこと、相対的明示事項 とは定めをする場合だけ明示すれば良い事項のことです。

それぞれ見ていきましょう。

絶対的明示事項

労働条件のうち、必ず明示しなければならない 絶対的明示事項 は6つあります。

  1. 労働契約の期間
  2. 期間の定めのある契約(有期労働契約)を更新する場合の基準
  3. 就業の場所及び従事すべき業務
  4. 始業・終業時刻所定労働時間を超える労働の有無休憩時間休日休暇、2交代制等に関する事項
  5. 賃金(退職手当・臨時に支払われる賃金・賞与等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払いの時期、昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む

絶対的明示事項は、まさに「絶対に」明示しなければいけない労働条件なので、項目ごとにもう少し詳しく解説していきます。

① 労働契約の期間

労働契約の期間については、次のことを明示する必要があります。

  • 期間の定めがあるかないか
  • 期間の定めがあるならその期間

② 期間の定めのある契約を更新する場合の基準

期間の定めのある契約を更新する場合の基準については、まず契約期間の満了後に契約を更新する場合があるときだけ明示すれば足ります。

また、その際に明示しなければならないのは次のことです。

  • 契約更新の有無
  • 契約更新の判断基準(業務量や本人の能力、会社の経営状況により判断するなど)

③ 就業の場所及び従事すべき業務

就業の場所及び従事すべき業務については、雇入れ直後の就業場所と業務を明示すれば足ります。

もちろん、将来の就業場所や従事させる業務をあわせて網羅的に明示することは差し支えありません。

④ 労働時間に関する事項

始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇といった労働時間に関する事項については、具体的な条件を明示しなければなりません。

⑤ 所定労働時間を超える労働の有無

労働時間に関する明示事項のうち、所定労働時間を超える労働の有無については、あくまでも「所定労働時間を超える労働があるかないか」だけ明示すれば足ります。

つまり、「所定労働日以外の日の労働の有無(休日労働の有無)」や「所定労働時間を超える労働がどれくらいあるか」まで明示する必要はない、ということです。

⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

退職に関する事項については、退職の事由及び手続解雇の事由等を明示しなければなりません。

相対的明示事項

労働条件のうち、定めをする場合だけ明示すれば良い 相対的明示事項 は8つあります。

あくまでも「定めをする場合だけ」明示すれば良いので、定めをしない場合には明示の必要はありません。

  1. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  2. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与等、最低賃金額に関する事項
  3. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  4. 安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰及び制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

【ポイント③】労働条件はどのように明示する?

最後に労働条件の明示方法です。

原則として、絶対的明示事項については書面の交付により明示しなければなりません。

しかし、2019年(平成31年)4月1日から労働条件の明示がFAX・電子メール・SNS等でも可能となりました。

こちらについては以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

また、これまでと変わらず、絶対的明示事項のうち昇給に関する事項だけは口頭による明示でも差し支えありません。

同じく、相対的明示事項口頭による明示で良いとされています。

労働条件の明示方法についてもいくつか注意点があるので見ていきましょう。

注意点① 書面の形式は自由

労働条件を明示する際の書面ですが、形式は自由です。

また、労働条件を明示する相手方の労働者に対して「ここが当てはまりますよ」という部分を明確にすれば、就業規則の交付でも差し支えありません。

そうは言っても明示すべき内容がきちんと網羅されているか不安…。

そうですよね。明示しなければならない事項が多いので不安になるのは当然です。

そんなときは厚生労働省のホームページ労働条件通知書の雛形がありますので、利用してみると良いでしょう。

以下にリンクも貼っておきます。

参考 労働条件通知書厚生労働省

注意点② 労働契約を更新する際にも明示が必要

労働条件は、労働契約の締結時に一度だけ明示すればOKというわけではありません。

期間の定めのある労働契約の場合は、労働契約を更新する際にも労働条件の明示が必要です。

さらに、期間の定めのない労働契約であっても、労働条件が変わった際(始業時間の変更など)には再度労働契約を明示する必要がありますのでご注意ください。

注意点③ 明示すべき事項の内容が膨大になる場合

明示すべき労働条件の内容があまりにも多すぎると、明示する側も明示される労働者側もかえって不都合になる場合があります。

そのため、絶対的明示事項のうち次の事項については、明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合、労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるとされています。

  • いわゆる労働時間等に関する事項(所定労働時間を超える労働の有無を除く)
  • 退職に関する事項

また、賃金に関する事項については、採用時に交付される辞令等に就業規則に定められている賃金等級を表示することでも差し支えありません。

まとめ

今後、雇用形態がますます多様化していく中で、労働条件をはっきり示しておくことは無用な紛争を避けるためにも非常に大切になってきます。

いつ、何を、どのように、という3つのポイントからしっかり確認していきましょう。

<参考資料>

通達:平成11年1月29日基発45号

通達:平成24年10月26日基発1026-2号

通達:昭和51年9月28日基発690号