こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
ここ数年、その伸び率が大きくなったこともあり、あちこちで耳にするようになった最低賃金という言葉。
ですが「賃金の最低額ということはなんとなくわかるけれど、詳しいことはわからない」という方が、雇う側・雇われる側を問わず多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、最低賃金について制度の概要 や 対象者 、 計算方法など最低賃金のすべてをわかりやすく解説します。
最低賃金とは?
まず最初に、「そもそも最低賃金とは何なのか?」について。
最低賃金とは、最低賃金法に基づいて国が定めた賃金の最低額のことで、賃金を支払う場合は定められた最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
労使で合意がある場合
たしかに、労働契約の原則は合意ですから(労働契約法第6条)、一見すると「合意があれば支払う賃金が最低賃金を下回ってもOK」とも思えます。
しかし、この最低賃金法は強行法規的性質を持っているため、たとえ労使の合意により最低賃金よりも低い賃金を定めたとしても、その定めは無効となり、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
つまり、少なくとも最低賃金額の支払いをしなければならない、ということです。
当事者間の意思や合意に関わらず適用される性質をもった法令の規定のこと。
そのため、たとえ当事者間で合意があったとしても、その法令に反していれば無効となります。
最低賃金額を支払っていない場合
改定された最低賃金額を知らなかった、計算方法を間違えていた、など、最低賃金額以上の賃金を支払っていなかった場合には、賃金を支払う側はその差額を支払わなければなりません。
もし 地域別最低賃金 を支払わない場合は50万円以下 の罰金(最低賃金法)、特定最低賃金 を支払わない場合は30万円以下 の罰金(労働基準法)が定められています。
最低賃金の種類
ここまで、ひとくちに「最低賃金」と言ってきましたが、実は最低賃金には地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金という 2つの種類 があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわりなく、すべての労働者と使用者に対して適用される最低賃金のことです。
各都道府県につき1つずつ、全部で47の最低賃金が定められています。
特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金とは、特定の産業について、関係者の任意の申出により定めることができる最低賃金です。
ただし、特定(産業別)最低賃金の額は 地域別最低賃金 の額を上回るものでなければなりません。
最低賃金の対象者
次は 最低賃金の対象者 について。
地域別最低賃金は、パートタイマー・アルバイト・臨時・嘱託・派遣・常用といった雇用形態や呼び方を問わず、各都道府県で働くすべての労働者と使用者に適用されます。
また、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の事業場で働く労働者について適用されますが、地域別最低賃金の方が高い場合は、地域別最低賃金が適用されますのでご注意ください。
最低賃金を支払わなくもいい場合がある?
もちろん、原則はあくまでも「最低賃金はすべての労働者に適用」です。
しかし、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めかねないといった理由から、次に該当する労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に最低賃金額の減額の特例が認められています。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試みの使用期間中の者(最長6ヶ月を限度とする)
- 認定職業訓練を受ける者
- 軽易な業務または断続的労働に従事する者
ちなみに、減額できる額については、最低賃金に当該者それぞれの職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定められた一定の率を乗じた額までとなっています。
最低賃金の対象となる賃金
お待たせしました!いよいよここから実際の「賃金」に焦点を当ててお話をしていきます。
まず、最低賃金の(比較の)対象となる賃金ですが、これは労働者に支払われる賃金のうち毎月定期的に支払われる固定的賃金のみです。
「???」となるのも無理はありません。というのも、法令には「◯◯が対象です」と明記されているわけではないからなんですね。
そこで、法令に定めのある「最低賃金の対象から除く賃金」から見てみます。
最低賃金の対象から除く賃金は、次の6種類です。
- 臨時に支払われる賃金(報奨金、結婚手当など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜勤務手当など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
この6種類をチャート形式にすると、次のようになります(箇条書きの番号と、チャート内の( )で囲まれた数字が対応しています)。
このチャートが一番わかりやすいかと思いますが、改めて最低賃金の対象となる賃金をまとめると、
- 基本給、役職手当、職務手当といった、毎月決まった額で支払われる賃金のみが対象
- 月によって変動する残業手当等や、個々の労働者の事情によって異なる通勤手当等は対象外
ということになります。
最低賃金の計算方法
続いて、労働者に支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを比較するための計算方法です。
メディアで耳にしたり、ポスターで目にする最低賃金は「◯◯◯円」となっていますよね。
これは、あくまでも1時間あたりの賃金額です。
ということはつまり、支払われる賃金が日給や月給の場合は、賃金を1時間当たりの金額(時給)に換算して比較しなければならない、ということになります。
決して笑い話ではありません。これは、実際に私のお客様から言われたことです。
どんな形式で賃金を支払っていても最低賃金は適用されますのでご注意ください。
このことをご理解いただいたうえで、賃金形態ごとに計算方法を見ていきます。
①時間給の場合
労働者の賃金がすべて時間給で支払われている場合は次のように単純に比較し、労働者の賃金額が最低賃金額以上であればOKです。
時間給≧最低賃金額
②日給の場合
日給の場合は、次のように 1日の日給を1日の所定労働時間で割って時給に換算したうえで、最低賃金額と比較します。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額
③月給の場合
月給の場合は、日給と同様に1ヶ月の月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割り、時給に換算したうえで最低賃金額と比較します。
月給÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金額
④出来高払いその他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払いその他の請負制(以下出来高払い制等)によって定められた賃金の場合、次の計算式によって計算します。
⑤上記①〜④の組み合わせの場合
例えば、賃金の中で「基本給は日給だが手当は月給」というような場合もあるはずです。
その際には、上記①〜④のうちで当てはまるものをそれぞれに用いて時給額に換算したうえで、合算したものと最低賃金額を比較します。
その他
その他、最低賃金に関していくつかお伝えしておきたいことです。
最低賃金の改定時期
地域別最低賃金は、毎年だいたい10月1日ごろ改定されます。
「ごろ」というのは各都道府県によって微妙に日時が違うためなのですが、およそ10月が近づいてくれば「そろそろ最低賃金が改定されるな」と気にかけておくと良いでしょう。
派遣労働者の最低賃金
派遣労働者とは、派遣元に雇用され、派遣先の指揮命令を受けて働く労働者のことですが、派遣元の会社所在地 と 派遣先の会社所在地 の都道府県が異なることはよくある話です。
この場合、最低賃金はどちらの都道府県のものを適用すれば良いでしょうか?
正解は、派遣先の会社がある都道府県の最低賃金を適用します。混乱しやすいので注意しましょう。
最低賃金の周知義務
使用者は、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法で労働者に周知しなければなりません。
具体的に周知しなければならない内容は次のとおりです。
- 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
- 効力発生年月日
もし、周知の措置を取らなかった使用者は、30万円以下の罰金に処せられることがありますので注意してください。
まとめ
かつては「今年は据え置き」「どうやら1円上がったらしい」というように、最低賃金は目くじらを立ててまで気にするものではありませんでした。
しかし、近年の最低賃金は年々大きく伸び続けています。
ということは、会社側は自社の賃金制度そのものの見直しも必要となるでしょうし、働き手の側も「自分の賃金は正しく支払われているのか」を自らチェックしていくことが大切になってくるでしょう。
そのためにも、まずは最低賃金の基本をしっかり押さえ、活用していただければと思います。