こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
労務用語の基礎知識、今回は「年次有給休暇」について解説します。
制度趣旨
年次有給休暇とは、「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇」のことです(厚生労働省ホームページより)。
この年次有給休暇は、法律上の要件を満たせば誰に対してもその権利が発生します。なぜなら、休日以外に一定日数の有給休暇を与えることで、労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活の実現に資することが年次有給休暇制度の趣旨だからなんですね。
年次有給休暇の基本的ルール
次に、年次有給休暇の基本的なルールです。
発生要件
労働基準法において、年次有給休暇が発生するための要件は以下の2つです。
- 雇入れの日から起算して6ヶ月間継続して雇われている
- 全労働日の8割以上を出勤している
この2つの要件を満たしていれば、労働者は年次有給休暇を取得することができます。
労働契約上「労働義務のある日」をいい、就業規則等で「労働日」と定められた日のこと。
一般的には、6ヶ月の総暦日数(カレンダーの日数)から、就業規則等で定められた所定の休日を除いた日が該当します。
付与日数
続いて、年次有給休暇の付与日数についてみていきます。
原則的な付与付与日数
使用者は、労働者が ①雇入れの日から6ヶ月間継続勤務 し、②その6ヶ月間の全労働日のうち8割以上出勤 した場合には10日の年次有給休暇を与えなければなりません。
この10日は継続していても分割していてもかまいません。
また、次に述べる比例付与の対象者以外の労働者であれば、監督的地位にある労働者 や 期間を定めて雇用されている労働者 にも同じく10日の年次有給休暇を与える必要があります。
そして、最初の6ヶ月経過後は、継続勤務年数1年ごとに一定日数を加算した日数を付与することになります。その付与日数は以下の表の通り。
継続勤務年数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
6ヶ月経過後の年次有給休暇付与については、いくつか注意事項があります。
①前回年次有給休暇が付与された日から1年間の出勤率が8割を超えていること
もし8割を超えていなかった場合は年次有給休暇は付与しなくて良い、ということです。
ただし、その次の1年間の出勤率が8割を超えていれば、翌年は原則どおりの付与日数を与えなければいけません。
②新たな付与日数は20労働日が限度であるということ
たとえ6年6ヶ月以上継続勤務していても、1年あたり最大20労働日分の年次有給休暇が付与されていれば法律上問題はありません。
なお、年次有給休暇は翌年度まで繰り越すことができるため、まったく年次有給休暇を使わなかった場合は、「繰越分20労働日+付与分20労働日=最大40労働日」の年次有給休暇が1年間に存在する可能性はあります。
比例付与
何度も書いているように、年次有給休暇は ①雇入れの日から6ヶ月間継続勤務 し、②その6ヶ月間の全労働日のうち8割以上出勤 した場合には誰に対してもその権利が発生します。
しかし、所定労働日数が少ないパートタイム労働者などにも通常の労働者と同じ日数の年次有給休暇を付与することは公平ではありません。
そのため、通常よりも少ない日数を年次有給休暇として付与するのが比例付与という制度です。
比例付与の対象となるのは以下のいずれの要件も満たす労働者です。
- 週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、年間所定労働日数が216日以下)
- 週所定労働時間が30時間未満
上記の要件のどちらか一方にしか該当しない労働者には、原則的な年次有給休暇を付与しなければならないということになります。例えば…
- 1日4時間勤務・週所定労働日数5日→原則どおり
- 1日8時間勤務・週所定労働日数4日→原則どおり
- 1日7時間勤務・週所定労働日数4日→比例付与の対象
ということになります。
また、比例付与の日数は以下のとおりです。
週所定 労働日数 |
1年間の所定 労働日数 |
継続勤務年数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 | ||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
与える時季
年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えなければならないとされています。
この、労働者が持っている年次有給休暇の取得日を指定(選択)できる権利を時季指定権と言い、原則として年次有給休暇は労働者が指定した日に与えなければなりません。
時季変更権
とはいうものの、「いや、さすがにその日だけは休まないで…」ということもあります。
このように労働者から請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。
これを時季変更権と言いますが、まずはできるかぎり労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることが必要です。
時効
年次有給休暇の請求権の時効は2年です。
仮に、 2018年10月1日 に 20日 の年次有給休暇が発生したとしましょう。
この20日分は 2020年9月30日 まで取得することができ、この 20日 のうち取得していない日分があれば 2020年10月1日 に時効によって消滅します。
もし、この 20日分 をまったく取得していなければ、 2019年10月1日 からの 1年間 は繰越分も含めて 合計40日分 の年次有給休暇の取得が可能になるということです。
斉一的取扱い
年次有給休暇は、法律上の要件を満たせば原則として雇入れの日から6ヶ月経過した日に発生します。
この年次有給休暇が発生する日のことを基準日と言いますが、中途採用が多い会社や労働者の人数が多い会社などでは、1人ずつの基準日を把握することはとても大変です。そのため、法律ではすべての労働者の年次有給休暇の基準日を統一することを認めており、これを斉一的(せいいつてき)取り扱いと言います。
斉一的取り扱いはあくまでも事務の煩雑化を避けるためのものですから、労働者の不利にならないよう次の要件を満たすことが必要です。
- 出勤率を計算する場合には、短縮された期間は全期間出勤したものとみなして計算すること
- 翌年度以降も、初年度で繰り上げた期間と同じ(またはそれ以上の)期間、法定の基準日より繰り上げること
基準日(年次有給休暇が発生する日)を統一したいからと言って、例えば10月1日の基準日を翌年の4月1日に繰り下げることは、労働者の不利となるためできません。
その他の年休
ここまでは原則的な年次有給休暇を見てきました。
そのほかにも、時間の単位や取得日などで異なるタイプの年次有給休暇がありますのでご紹介していきます。
時間単位年休
年次有給休暇は1労働日(1日)単位で取得することが原則ですが、労働者が時間単位での取得を希望した場合には、年に5日を限度として時間単位で年次有給休暇(時間単位年休)を与えることができます。
その際は労使協定の締結が必要(届出は不要)です。
半日単位年休
労働者が時間単位ではなく半日単位での取得を希望した場合は、使用者が同意をすれば、1日単位取得の阻害とならない範囲で半日単位で年次有給休暇を与えることも可能です。
この場合は労使協定の締結は不要です。
計画的付与
年次有給休暇は計画的に取得日を定めて与えることも可能です。
これを計画的付与と言い、次のような方式があります。
- 企業や事業場全体の休業による一斉付与方式
- 班・グループ別の交代制付与方式
- 計画表による個人別付与方式
いずれにしても、計画的付与制度を導入するためには労使協定の締結が必要(届出は不要)です。
また、すべての年次有給休暇が計画的付与の対象となるわけではなく、労働者自らが請求できる年次有給休暇を最低5日は残す必要があります。
特別休暇
特別休暇は法律で定められた年次有給休暇ではありません。
年次有給休暇に加え、休暇の目的や取得形態を任意に設定できる会社独自の特別な休暇制度のことを特別休暇と呼び、慶弔休暇などが該当します。
まとめ
年次有給休暇は、働く方の心身のリフレッシュを図るための制度ですが、「同僚への気兼ね」や「請求することへのためらい」から日本の年次有給休暇取得率は5割前後と非常に低くなっています。
この記事が制度の理解に役立ち、多くの方の年次有給休暇取得につながればたいへん嬉しく思います。
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