こんにちは、社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
令和4(2022)年1月1日 から健康保険の任意継続被保険者制度が改正されます。改正点は大きく 2点 。
この記事では任意継続被保険者制度の改正点と、改正されることによる効果をわかりやすく解説します。
任意継続被保険者制度そのものについては以下の記事をご覧ください。
改正点① 被保険者の任意脱退が可能に
任意継続被保険者制度の一つ目の改正点は被保険者の任意脱退が認められるようになったことです。
これまで、任意継続被保険者が資格を喪失する(任意継続被保険者でなくなる)のは次のようなときでした。
- 任意継続被保険者となった日から2年が経ったとき
- 死亡したとき
- 保険料を納付期限までに支払わなかったとき
- 就職して新たに健康保険等の資格を取得したとき
- 後期高齢者医療の被保険者となったとき(75歳になったとき)
- 船員保険の被保険者になったとき
これを見ていただくとわかるように、実は改正前においては原則として任意継続被保険者が自分の意志で「任意継続被保険者をやめます」ということができなかったんですね。
しかし2年もあれば生活実態も変わりますし、2年間変わらない保険料を支払い続けることが負担になることもおおいに考えられます。
そこで今回の法改正では、任意継続被保険者自らが「やめたい」と健康保険組合や協会けんぽ等に申し出れば任意継続被保険者でなくなることができるようになりました。
被保険者の資格を喪失するのは、申し出た月の末日となります。
どういう効果が期待できるか
これまで任意継続被保険者は自分の意志でやめることができなかったわけですが、具体的にいうと次のような理由ではやめることができなかったんです。
- 国民健康保険に加入したとき
- ご家族の健康保険に加入(扶養に入った)とき
たしかに会社をやめた時点では任意継続被保険者という選択がベストであっても、月日が流れれば状況は変わっていきます。自営業を始めたり、家族構成が変わるといったこともあるでしょう。
でもこれまでは、そんな状況でも自分の意志で任意継続被保険者をやめることができませんでした。そのため、保険料を始めとした負担がかなり大きなものとなっていた場合もあったはずです。
ですから今回、被保険者の意志で任意継続被保険者をやめられるようになることは、被保険者にとって柔軟な生活設計を考えることができるようになるという効果が期待できると言えます。
改正点② 保険料の算定基礎を従前の標準報酬月額とすることが可能に(健康保険組合のみ)
任意継続被保険者制度の二つ目の改正点は、健康保険組合において任意継続被保険者が負担する保険料の算定基礎を規約によって退職前の標準報酬月額とすることが可能になりました。
任意継続被保険者になると、それまで会社と折半して負担していた保険料を全額自分で負担することになります。
その保険料について、健康保険組合ではこれまで次の①②のうちいずれか少ない額を計算の基礎とすると定められていました。
- 被保険者が資格を喪失したとき(会社をやめたとき)の標準報酬月額
- 健康保険組合が管轄している全被保険者の、前年9月30日における標準報酬月額を平均した額(その範囲内において規約で定めた額がある場合はその額)
これはどういうことかというと、これまでは会社に勤めていたときにいくらたくさん健康保険料を支払っていても、任意継続被保険者になれば保険料に上限があったということなんです。
ちなみに協会けんぽにおける令和3年度の標準報酬月額の上限は 30万円 ですから、だいたいの目安になるでしょう。
それが今回の改正によって、規約で定めれば被保険者が会社をやめる前の標準報酬月額を、任意継続被保険者となってからの保険料を算定する際の基礎とすることができるようになりました。
つまり、会社をやめる前と同じ額の保険料を(しかも被保険者が全額負担する形で)徴収することが可能になったというわけです。
どういう効果が期待できるか
任意継続被保険者の保険料の上限が事実上なくなり、辞める前の標準報酬月額を基礎として計算することができるようになると、当然のことながら健康保険組合に入ってくる保険料が増えます。
そうすれば健康保険組合の経営が潤うという効果は十分に期待できると思われます。
実際にすべての健康保険組合が保険料の算定基礎を被保険者がやめる前の標準報酬月額とした場合、保険料収入は 約100億円 増加すると試算されています。
現実の対応は健康保険組合ごとに異なるでしょうが、保険料を負担するのは被保険者です。
被保険者の方は、ご自身が加入されている健康保険組合の動向を注意して見ておく必要があるでしょう。
まとめ
任意継続被保険者制度は会社をやめてからも安心して医療が受けられる大切な制度です。
「自分には関係ない」と思っていても、いつ何時利用する立場になるかわかりません。
今回の改正点も含め、しっかりと把握しておいていただければと思います。