こんにちは、社会保険労務士・ギャラップ認定ストレングスコーチの ゆかねぇ (@officeyuka) です。
2022年10月からパートやアルバイトといった短時間労働者に対する社会保険の適用範囲がさらに拡大されます。
この改正、企業担当者の方は「保険料の負担が…」と頭を抱えていらっしゃるだけではないでしょうか。
実は社会保険の適用拡大には企業にとってメリットも多くあるのです。
そこでこの記事では、社会保険の適用拡大が企業にもたらすメリットとデメリットを確認したうえで、具体的な対応策も詳しくお伝えしていきます。
2022年10月からの改正内容については、以下の記事に詳しく書いているので参考になさってください。
社会保険適用拡大が企業にもたらすメリット
2022年から社会保険の適用が拡大されるのは、社会保険の被保険者数が常時101人以上いる企業です。
このような企業のことを「特定適用事業所」と呼び、特定適用事業所になると、条件を満たす短時間労働者がいる場合に、その方を社会保険に加入させる義務が生じます。
こう申し上げると、真っ先に思い浮かぶのは保険料負担が増えることかもしれません。
しかし社会保険の適用拡大は決してそれだけではなく、企業にとってもメリットがあり、考えようによってはチャンスとさえとらえることができるのです。
そこでここから社会保険の適用拡大が企業にもたらすメリットを見ていきます。
メリット① 会社としての安心感を与えることができる
社会保険の適用拡大が企業にもたらす1つ目のメリットは会社としての安心感を与えることができる点です。
働く側からするとやはり「社会保険に加入している=しっかりした会社」と考えるもの。
いざというときに社会保険によって守ってもらえるというのは、働くうえでとても安心感があります。
ましてやパートなどの短時間で働く方はただでさえ不安定な立場ですから、適用拡大によって社会保険に入れる可能性が出てくると定着率が高まる効果も考えられます。
すると経営が安定し、ますます安心感・安定感が増していくという好循環が生まれるのです。
メリット② 求人や人材の確保に効果がある
社会保険の適用拡大が企業にもたらす2つ目のメリットは求人や人材の確保に効果がある点です。
今の若い方たちは安定志向が強いと言われているとおり、仕事を選ぶ際に社会保険などの福利厚生面を重要視する傾向がどんどん高まってきています。
また厚生労働省の調査によると、パート労働者の実に 6割 が「社会保険に加入できる求人は魅力的である」と回答しているとのこと。
反対に、少子高齢化の加速により今後人手不足がますます深刻になるのは目に見えています。
つまり「社保完備」でなければ人が集まらない可能性がおおいにありえるのです。
良い人材の確保はどの企業も悩みの種。社会保険にきちんと加入しておくことで人材が集まりやすくなるのであれば、適用拡大もじゅうぶんにメリットと言えるでしょう。
メリット③ 従業員側にもメリットがあることを知ってもらう良い機会になる
社会保険の適用拡大が企業にもたらす3つ目のメリットは従業員側にもメリットがあることを知ってもらう良い機会になる点です。
社会保険に加入するとなると、企業側はもちろん従業員も保険料を負担することになりますから、「入りたくない」という方も一定数出てくることは予想されます。
それでも社会保険に加入すれば将来受け取れる年金額は増え、万が一けがや病気で仕事を休まざるを得ないときでも健康保険から給付が出るなど、従業員側のメリットは非常に多いです。
さらに、意外と知られていないのが保険料を企業側が半分負担している点。
「自分が納めた保険料の倍額に相当する保障を受けられる」「その保険料を会社が負担してくれている」という社会保険ならではのシステムを知らない方は、実はかなり多いです。
社会保険の適用を拡大していくには、従業員への説明や理解が必要不可欠。
その際に従業員側のメリットを伝え、一方的な負担を強いられていると感じている従業員の方に「会社も自分達のために負担してくれているんだ」と思っていただくことができれば、双方にとって素晴らしい機会となるはすです。
従業員の方への説明には厚生労働省が出している以下のガイドブックをご利用いただくのも一つの手でしょう。
社会保険適用拡大が企業にもたらすデメリット
社会保険の適用拡大が企業にもたらすメリットが多いということをご理解いただいたうえで、やはりデメリットについてもお伝えしておきます。
まずなんといっても重くのしかかるのが保険料の負担。
たとえば次のようなパートさんがいらっしゃったとします。
- 時給 : 1,100 円
- 週の労働時間 : 25 時間
- 標準報酬月額 : 110,000 円
- 年齢 45 歳、東京都在住
このとき、およそ次の額の社会保険料を会社が負担することになります。
増加する被保険者数 | 1ヶ月あたり | 1年あたり |
1 人 | 16,758 円 | 201,096 円 |
5 人 | 83,790 円 | 1,005,480 円 |
10 人 | 167,580 円 | 2,010,960 円 |
30 人 | 502,740 円 | 6,032,880 円 |
50 人 | 837,900 円 | 10,054,800 円 |
100 人 | 1,675,800 円 | 20,109,600 円 |
※健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・子ども子育て拠出金を含む額
新たに社会保険に加入する従業員の方が何人かにもよりますが、決して安くはない額であることは事実です。
ですから対象となる可能性がある企業は、早い段階で「どれぐらいの保険料がかかるのか」を試算しておくことをおすすめします。
試算については厚生労働省のサイトに「社会保険料かんたんシュミレーター」がありますのでご利用いただくのもよいでしょう。
また社会保険への加入者が増えるということは、一時的に事務負担が増えることも予想されます。
それだけでなく、働き方そのものを変えたい、労働時間を増やしたい(あるいは減らしたい)という従業員が出てくれば、さらに事務が煩雑化する可能性もあります。
こちらも早めに対応の準備をしておくことが必要でしょう。
社会保険適用拡大に向けての対応策
ここからは、2022年10月からの社会保険の適用範囲拡大に向けて実際にどうしていけば良いのかという具体的な対応策をお伝えしていきます。
現段階で自社に社会保険の被保険者が常時101人以上いない場合には早急な対応は必要ありませんが、2024(令和6)年10月からは51人以上の企業も適用拡大の対象となります。
これを機に自社の状況把握をし、早めの環境整備をされるのも良いかもしれません。
Step① 加入対象者の把握
まず最初に、自社に社会保険の適用拡大によって対象となる従業員がいるかどうかを把握します。
対象となるのは以下のすべての項目に当てはまる方です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 継続して2ヶ月を超えて使用される見込みがあること
- 賃金の月額が88,000円以上であること
- 学生でないこと
ここで加入対象者がいるかいないか、またどれくらいいるのかを把握したうえで、自社の方針を決めていくことになります。
その際は先にご紹介した「社会保険料かんたんシュミレーター」を利用するのも良いでしょう。
一つひとつの項目については、以下の記事にて詳しく解説していますので参考になさってください。
▶︎2022年10月からの社会保険適用拡大 。目的、対象事業所や対象者の要件をわかりやすく解説
対象となる従業員を把握していく過程で雇用契約書を確認していくこととなるはずです。
その際、週あたりの労働時間が契約書上でも明確になっているかどうか、実態に即した雇用契約が結ばれているかなども合わせて確認し、必要があれば正しい契約書を締結するといった対応を行なっていくと良いでしょう。
Step② 社内周知
次に、新たに社会保険の加入対象となる従業員の方に向けて周知をはかっていきます。
メールやプリント配布、掲示板への掲示など、改正内容がしっかりとわかるように周知をすることが大切です。
Step③ 従業員との面談や説明会の実施
社会保険適応拡大に向けての対応策としてもっとも重要となるのが対象となる従業員との面談や説明会の実施です。
社会保険の適用が拡大すると会社の負担も増えますが、従業員側も保険料を負担することになります。
ですから「法律でこう決まったから」「うちの会社としてはこうだから」と言っても、「ハイそうですか」と納得してくださる従業員の方が少ないはず。
だからこそ個別の面談や説明会の場面で従業員の方の話や意向をじゅうぶんにヒアリングし、お互い納得のいくように進めていくことが大切なのです。
たとえば面談時、社会保険への加入意思を確認するだけでなく「今後どのような働き方をしていきたいか」を聞いてみるのはどうでしょう。
実は「子供が小学校に入ったらもっと働きたい」「本当はもっと責任ある仕事をまかせてほしい」といった希望をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
また企業側のメリットのところでもお伝えしたように、従業員側も社会保険に加入するメリットが多いこと、社会保険料を会社も負担していることなどをお伝えすると「それなら入りたい」となることも考えられます。
しかしそれでも「やっぱり社会保険には入りたくない」という方も一定数はいらっしゃるでしょう。
そのような場合に備えて、選択できる働き方を準備しておくことも必要になってきます。
いずれにしても一方的な押し付けではなく、従業員の方に理解していただくためにある程度の時間と手間をかけることが適用拡大を進めていくうえでの最重要課題だと言えます。
Step④ 書類の作成・届出
加入対象者の意向が確認できたら、あとは書類を作成し届出をします。
社会保険の適用拡大の対象となる(または可能性のある)企業については、2022年8月までに日本年金機構からその旨のお知らせが届きます。
それに従って、加入する従業員がいる場合は「被保険者資格取得届」を作成し、届出をすることになります。
届出はオンラインでも可能です。
まとめ
社会保険の適用範囲の拡大は、正直に言って簡単に進められるものではありません。大変です。
でも逆に言うと、社内環境の整備や求人条件の改善、さらには既存の従業員との絆を深められるなど、捉えようによってはチャンスでもあります。
早めの準備、早めの対応にこの記事を役立てていただければ嬉しいです。
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