こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
給与は従業員のみなさんの生活を支える大切なもの。そのため、給与計算業務は1円のミスも許されない大変なお仕事です。
ところでその1円、正しく端数処理されているでしょうか?
今回はその端数処理について徹底解説します。
大原則:切り捨てはダメ、ゼッタイ
給与計算時の端数処理ですが、大原則は切り捨ては法に違反するというものです。
例えば時間の端数処理。「4時間11分」という労働時間に対して給与を計算する場合は、どうすればいいでしょうか?
- キリよく「4時間」でいいんじゃない?
- 1分ぐらいは切り捨てOK?「4時間10分」で!
- きっちりぴったり「4時間11分」でしょ!
- 従業員のために!「4時間15分」に切り上げるべし!
この場合、①と②は違法です。④までする必要はありませんが、すること自体は問題ありません(従業員にとって有利な処理のため)。③であれば適法となります。
つまり、原則は「たとえ1分でも切り捨てることは違法」なんですね。
続いて金額の場合。さきほどと同じく「4時間11分」という労働時間に対し、時給が 950円 だと、
4時間11分×950円=3,974.16666…
となるのですが、この場合の端数処理はどうなるでしょうか。
- 端数は問答無用で切り捨て!「3,974円」
- 四捨五入が基本でしょ?「3,794円」
- 従業員のために全部切り上げ!「3,795円」
この場合、②でも良さそうな気がしませんか?
しかし適法なのは③だけです。
時間にしても金額にしても「なぜ切り捨てが法に違反するのか?」というと賃金全額払いの原則に反するからです。たとえ1分でも、銭単位でも、切り捨てる=労働に対する賃金を全額払っていないということになるのです。
賃金の支払いについて 通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 3条1項(詳細は省きます)を根拠に「銭単位は四捨五入OK」とするところもありますが、労働基準監督署に確認したところ「切り上げてください、四捨五入もダメです」とのご回答をいただいています。
「賃金全額払いの原則」について詳しく知りたい場合は、こちらをご覧くださいね。
例外:3つの「時点」
ここまでお伝えしてきたのは「大」原則です。
実際には「こういう場合は労働基準法に違反しないよ」という処理方法が通達(S63.3.14 基発第150号)で5つ示されています。
いずれについても「常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから」という理由で適法とされています。
それでは順番に見ていきましょう。ポイントは「今、何を計算しているのか?」を3つの時点に分けて考えることです。
例外①:時間計算時
まず最初は「時間計算時」です。以下の場合は労働基準法に違反しないとされています。
①1ヶ月の時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、これ以上を1時間に切り上げること
たしかにわかりにくいですね。では具体例を出してみます。
Aさんが、12月に以下のような時間外労働をしたとします。
3日 | 25分 |
11日 | 31分 |
12日 | 20分 |
14日 | 1時間 |
19日 | 50分 |
21日 | 1時間5分 |
合計 | 4時間11分 |
この場合の端数処理はこのようになります。
- 合計時間→11分を切り捨て4時間とすることは適法
- 1日ごとの時間外労働時間→切り捨てることは違法
つまり、合計時間数は四捨五入してもいいが、1日単位での切り捨ては違法ということです。(端数の切り上げは労働者にとって有利になりますから問題ありません)。
また、この端数処理は「時間外労働」「休日労働」「深夜業」のそれぞれの合計時間についてのみ行うことが適法とされています。
時給制の従業員が通常の時間(1日8時間の範囲内)働いた場合の計算をする際には、原則どおり1分単位まで計算しないといけないというわけですね。
例外②:金額計算時
次は「金額計算時」です。ここでは、以下の2つの場合には労働基準法に違反しないとされています。
②1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること
③1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること
そう、ここで少し引っかかってしまうので一旦整理します。
- 労働時間の計算は1日単位での四捨五入は違法
- 金額の計算は1時間単位での四捨五入も適法
- 1ヶ月単位の四捨五入は時間・金額ともに適法
項目の最初でお知らせしたとおり、今計算しているのが「時間」なのか「金額」なのかを意識することがポイント、というわけなんですね。
例外③:支払時
最後は「支払時」です。ここでも、2つの場合については労働基準法に違反しないとされています。
④1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。以下同じ。)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うこと
⑤1か月の賃金支払額に生じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと
これは比較的わかりやすいのではないかと思います。つまり、
- 1ヶ月の最終支給額→100円未満を四捨五入しても適法
- 1ヶ月の最終支給額→1,000円未満の端数は翌月に繰り越しても適法
ということになります。
まとめ
給与計算の端数処理、いかがでしたでしょうか?
最近は給与計算ソフトも多数出回り、手計算で給与を計算することなどはまずないかもしれません。ただ「ソフトに任せておけば安心」と思っていたのに実は違法だった、ということもありうる話です。
会社を守るため、従業員のみなさんを守るため、正しい知識を身につけておきたいものですね。
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