こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
賃金や労働時間といった労働条件は、労働者を募集する際に明示(はっきり示す)しなければならないと職業安定法で定められています。
とはいえ、その内容は法改正などもありなかなか複雑。
そこでこの記事では、労働者を募集する際の労働条件明示について、①いつ ②何を ③どのような方法で行わなければならないのかという3つのポイントから解説します。
ちなみに、労働基準法に定められた労働契約締結時の労働条件明示については、次の記事を参考になさってください。
【ポイント①】募集時の労働条件はいつ明示する?
いきなりごめんなさい。たしかにおっしゃるとおりです。
労働者を募集するにあたって、労働条件は募集の時に明示しなければなりません。
「募集の時」をもっと具体的に言うと、次のような場面が挙げられます。
- ハローワーク等へ求人の申込みをするとき
- 自社ホームページで募集するとき
- 求人広告を掲載するとき
このような場面で、求人票や募集要項等において労働条件を明示することが必要です。
やむを得ない場合はどうする?
募集時にはすべての労働条件を明示することが大原則です。
しかし、ハローワークの求人票には一定の文字数しか載せられませんし、求人広告の広告スペースにも制限がある場合があります。
このように、明示したくても紙幅に制限がある等のやむを得ない場合は、「詳細は面談の時にお伝えします」などと書いた上で労働条件の一部を別途明示することも可能です。
ただし、この場合でも初回の面接等、求人者と求職者が最初に接触する時点までにはすべての労働条件を明示すべきとされていますのでご注意ください。
【重要】労働条件に変更等があった場合
おめでとうございます!良かったですね!
このように、採用が決まると次は契約を結ぶことになりますが、その際にもし労働条件が募集当初と異なる場合はどうすればよいでしょうか。
この場合、労働契約を締結する前に変更内容等を新たに明示しなければなりません。
労働条件が異なると言っても様々なパターンが考えられますが、特に明示が必要なのは次の4つの場合です。
- 「当初の明示」と異なる内容の労働条件を提示する場合
- 「当初の明示」の範囲内で特定された労働条件を提示する場合
- 「当初の明示」で明示していた労働条件を削除する場合
- 「当初の明示」で明示していなかった労働条件を新たに提示する場合
また、明示の方法は求職者が変更内容を適切に理解できるような方法で行う必要があります。
できれば 当初の明示 と 変更後の内容 を対照できる書面を交付するのが望ましいですが、労働条件通知書の該当箇所に下線を引いたり脚注をつけるといった方法で明示することも可能です。
【ポイント②】募集時の労働条件は何を明示する?
次に、募集時に明示しなければならない労働条件ですが、必ず明示しなければならない事項と自社に制度がある場合のみ明示すればよい事項があります。
それぞれ見ていきましょう。
必ず明示しなければならない事項
募集時に必ず明示しなければならない労働条件は、大きく分けて9つあります。
- 労働者が従事すべき業務の内容
- 労働契約の期間
- 試みの使用期間
- 就業の場所
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日
- 賃金の額
- 社会保険(健康保険・厚生年金)・労働保険(労災保険・雇用保険)適用の有無
- 労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称
- 労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨
このうち「⑨労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨」は、文字通り労働者を派遣労働者として雇用する場合のみ明示すれば足ります。
労働契約締結時の明示事項と何が違う?
冒頭で少しお伝えしたのですが、労働条件は労働契約を締結する際にも明示が必要です。
そして、実は明示しなければならない事項が募集時と労働契約締結時で少し違います。
わかりやすいように表にしました。
募集時のみ明示する事項 | 労働契約締結時のみ明示する事項 |
試みの使用期間 | 有期労働契約を更新する場合の基準 |
社会保険・労働保険適用の有無 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
雇用しようとする者の氏名又は名称 | |
(派遣労働者として雇用しようとする旨) |
上記のように、それぞれ少しづつですが明示しなければいけない事項が異なりますのでご注意ください。
また、いずれにしても労働条件は募集時 と 労働契約締結時 の両方で明示が必要ですし、先にご説明したとおり当初の労働条件から変更等があればさらに明示が必要です。
決して「募集時に明示したからいいじゃない」とはならないのでお気をつけください。
制度がある場合のみ明示すればよい事項
募集時に明示しなければならない労働条件のうち、自社で制度がある場合のみ明示すればよい事項は2つあります。
裁量労働制を採用している場合
裁量労働制 とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できる制度のことです。
労働基準法では 専門業務型 と 企画業務型 の2つを規定していますが、どちらの場合も「1日に何時間働いたものとみなすか」が労使協定や労使委員会であらかじめ定められています。
そしてこれが、労働条件のうち「労働時間」に関するものであるために明示の必要があるというわけです。
ちなみに、具体的には次のような記載が必要になります。
固定残業代制を採用している場合
固定残業代 とは、その名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。
これは、労働条件のうち「賃金」に関するものですから当然明示の必要があります。
そして、固定残業代制については近年トラブルが多く見受けられることから、次の3つの内容すべてを明示しなければなりません。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
そうですよね。ごめんなさい。
なので、こちらも具体的な記載例を挙げておきます。
- 基本給(××円)(②の手当を除く額)
- 固定残業手当(時間外労働の有無にかかわらず、◯時間分の時間外手当として△△円を支給)
- ◯時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
【ポイント③】募集時の労働条件はどのように明示する?
最後に、募集時の労働条件の明示方法です。
【原則】書面の交付
募集時の労働条件は、原則として書面の交付によって明示しなければなりません。
これは、必ず明示しなければならない事項、制度がある場合のみ明示しなければならない事項 のいずれも書面の交付が必要です。
【例外】求職者が希望する場合
例外として、求職者が希望する場合には次のいずれかの方法によって労働条件を明示することも可能です。
- FAX
- 電子メール等の受信者を特定して情報が伝達できるもの
こちらはあくまでも求職者が希望する場合のみなのでご注意ください。
まとめ
募集時の「言った言わない」は、後々大きなトラブルに発展することもあります。
細かいルールも多くありますが、どれもが最低限のルールととらえ、求職者の方に気持ちよく入社してもらえる体制づくりを募集時から行いたいものです。
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<参考資料>
・厚生労働省リーフレット「労働者を募集する企業の皆様へ」
・厚生労働省「職業安定法改正Q&A」