こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
年金生活者支援給付金ってどんなときにもらえるの?
親が年金で生活しているんだけど対象になるのかしら…。
令和元年(2019年)10月1日 から年金生活者支援給付金法が施行され、一定の要件を満たしている場合には通常の年金に加えて年金生活者支援給付金が支給されることとなりました。
ですが、どんなときにどれだけもらえるのかや注意点などについては、用語も難解でわかりづらいという声を聞きます。
そこでこの記事では、年金生活者支援給付金について制度の概要から対象となる方や支給額、注意すべき点にいたるまでできるかぎりわかりやすく解説していきます。
かなりボリュームのある記事となっていますので、目次を見て必要な箇所だけお読みいただくのもアリです!
年金生活者支援給付金とは
まず最初に、年金生活者支援給付金という制度そのものについてご説明します。
年金生活者支援給付金は、年金を含めても所得が低い高齢者・障害・ご遺族の生活を支援するために、通常の年金に上乗せして支給されるものです。
制度そのものが福祉的なものであるため、私たちが通常支払っている年金保険料からではなく国が給付金の全額を負担し、支給しています。
その財源として消費税引き上げ分を活用しているために、制度の開始が消費税引き上げの日と同じ(2019年10月1日)だったというわけです。
年金生活者支援給付金の種類
年金生活者支援給付金は全部で4種類あります。
- 老齢年金生活者支援給付金
- 補足的老齢年金生活者支援給付金
- 障害年金生活者支援給付金
- 遺族年金生活者支援給付金
太字になっている年金(老齢・障害・遺族)で生活している方を支援するための給付金、と捉えていただくとわかりやすいかと思います。
一つひとつの給付金の詳細については、後ほど丁寧に見ていきますのでご安心ください!
すべての年金生活者支援給付金に共通する事項
個々の年金生活者支援給付金について見ていく前に、4つの給付金すべてに共通する事項を確認していきます。
給付金を受け取るには
まず、年金生活者支援給付金は条件を満たしたからといって勝手に振り込まれるわけではなく、受け取るためには対象となるご本人が認定の請求というものを行わなければなりません。
「認定の請求」と言うと難しく聞こえますが、要は年金事務所へ行って手続きをするのだと考えていただければ良いです(もちろん郵送での手続きも可能です)。
請求に必要な書類は、対象となる可能性のある方へは原則として何らかの形で郵送されてきます。
「何らかの形」という歯切れの悪い言い方をしているのは、「これから年金を受け取るのかもう受け取っているのか」や年金の額など様々な要素によって届く書類が異なるためです。
ただ、「給付金が受け取れそうなのに書類が届いていない」という場合は、最寄りの年金事務所にご相談されると良いかと思います。
また一度手続きをすると、給付金を受け取れる要件を満たしている限りは「年度が変わったから」などの理由で特に手続きをする必要はありません。
しかし、一度支給要件を満たさなくなって給付金を受け取れなくなったものの、再度要件に該当して給付金を受け取ろうとする場合には、改めて手続きが必要となります。
給付金が支給される期間
年金生活者支援給付金は、原則として認定の請求(給付金をもらう手続き)をした月の翌月から、給付金を支給すべき事由が消滅した月までの間支給されます。
ただし!一点だけ例外があります。
それは、老齢・障害・遺族いずれかの基礎年金の受給権が発生した日から3ヶ月以内に給付金の認定請求がされた場合には、基礎年金の受給権発生日に認定請求があったものとみなされ、さかのぼって支給されるというもの。
つまり、元になる基礎年金が受け取れるようになってから3ヶ月以内であれば給付金もさかのぼって支給するけれど、それ以外の場合は請求の翌月からしか受け取れないということです。
給付金が支払われる期日
年金生活者支援給付金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月(偶数月)の年6回、それぞれ前月分と前々月分が支払われます。
たとえば、8月に支払われるのは6月分と7月分ということですね。
これは通常の年金とまったく同じなので、年金と同じ日に、同じ口座に給付金も振り込まれることとなります。
ちなみに、振り込み自体は別での振り込みのため、通帳には分けて記載されます。
給付金の額の改定
年金生活者支援給付金の額は法律上一定ではあるのですが、物価の変動によって毎年度少しずつ額が変わります。
もし給付額が改定された場合、「年金生活者支援給付金額改定通知書」というものが送られてきますのでご安心ください。
また、給付金によっては物価の変動以外でも給付額が変わる場合があるので、こちらについては後ほど詳しく解説していきます。
給付金に税金はかかる?
年金生活者支援給付金に税金はかかりません(非課税)。
給付金をもらっている方が亡くなった場合(未支払の給付金)
年金生活者支援給付金をもらっている方(受給権者)が亡くなった場合、支払い期日が来ていなかったために受け取れなかった給付金が存在することがあります。
この未支払いの給付金については、次のうちもっとも順位の高い方が、自分の名前で請求し、受け取ることができます。
受給権者が死亡した当時、その方と生計を同じくしていた | ①配偶者(事実婚含む) |
②子 | |
③父母 | |
④孫 | |
⑤祖父母 | |
⑥兄弟姉妹 | |
⑦上記以外の3親等内の親族 |
未支払いの給付金についても取り扱いは年金と同じですので、年金と合わせて手続きをすることになります。
給付金が支給されない場合
次の場合には、たとえ支給要件を満たしていても年金生活者支援給付金を受け取ることができません。
- 日本国内に住所がないとき
- 年金自体が全額支給を停止されているとき
- 刑事施設等に拘禁されていたり、少年院等に収容されているとき
高齢者への給付金①:老齢年金生活者支援給付金
では、いよいよここから4つの年金生活者支援給付金を順番に見ていきます。要件や数字が細かくなってきますので、じっくり読み進めてください。
まず最初は、高齢者を対象とした老齢年金生活者支援給付金です。
支給要件(対象者)
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、次のすべての要件を満たす必要があります。
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること
- 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が老齢基礎年金満額相当(約78万円)以下であること
- 同じ世帯の全員が市町村民税非課税であること
ほとんど太字になってしまいしまたが、それぐらい支給要件には細かく注意すべき点がありますので、1つずつ見ていくことにします。
要件① 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、65歳以上の老齢基礎年金の受給者である必要があります。
これは、ただ老齢基礎年金を受け取る権利を持っているだけではなくすでに年金を受け取っている状態でなければならない、ということです。
また老齢基礎年金には支給の繰り上げという制度があり、請求をすれば60~64歳であっても受け取ることができます(額は減額)が、給付金はあくまでも65歳になってからしか受け取ることができません。
要件② 所得の合計額が一定額以下であること
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、ご本人の前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が、老齢基礎年金満額相当以下である必要があります。
この文章だけでは何を言っているのかわからないと思うので、わかりやすく図にしました。
図を元に注意点を箇条書きでまとめると次のようになります。
- 公的年金等の収入金額には、障害年金や遺族年金等の非課税収入は含まない(老齢年金は課税対象なので含まれる)
- その他所得とは、給与所得や利子所得などである
- 老齢基礎年金満額相当額は、毎年度老齢基礎年金の額を勘案して改定される
小難しい表現になってしまいましたが、要するに「前年の所得総額が老齢基礎年金のほぼ満額より少なくないとダメ」ということです!
要件③ 同じ世帯の全員が市町村民税非課税であること
老齢年金生活者支援給付金を受け取るためには、同じ世帯に住む全員が市町村税非課税でなければなりません。
市町村民税が非課税(課税されない)となるのは次のような方です。
- 生活保護法による生活扶助を受けている方
- 障害者、未成年、寡婦(寡夫)またはひとり親であって、前年の合計所得金額が135万円以下の方
- 前年の合計所得金額が、各自治体で定める金額以下の方(控除対象配偶者や扶養親族の有無によっても変わります)
税金についての詳細なお話は他に譲りますが、要するに自分だけではなく一緒に住んでいる方の所得も合わせて考え、その全員が非課税でなければならないということです。
給付額
老齢年金生活者支援給付金の支給要件を満たした場合、受け取ることができるのは次の①と②を合計した額(月額)です(令和6年4月以降)。
①保険料納付済期間に基づく額 | 5,310円×保険料納付済期間の月数÷480月 |
②保険料免除期間に基づく額 | 11,333円×(保険料全額免除・3/4免除・半額免除期間の月数)÷480月 5,666円×保険料1/4免除期間の月数÷480月 |
計算式が随分と複雑に見えますが、自分が納めた保険料の額に応じてもらえる額も変わるとお考えください。
ちなみに、赤字になっている「5,310円」を給付基準額と言い、毎年度物価変動に応じて改定されます。
高齢者への給付金②:補足的老齢年金生活者支援給付金
次は、高齢者を対象としたもうひとつの給付金である補足的老齢年金生活者支援給付金です。
支給要件(対象者)
補足的老齢年金生活者支援給付金は、「補足的」と書かれているとおり老齢年金生活者支援給付金を補足するための給付金です。
そのため、老齢年金生活者支援給付金の所得要件(前述の要件②)を満たしていない(超えている)が、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合算額が約88万円以下の場合に対象となります。
これは、老齢年金生活者支援給付金を受給される方と所得総額が逆転しないためのものとお考えください。
給付額
補足的老齢年金生活者支援給付金の給付額(月額)は次のとおりです。
(5,310円×保険料納付済期間の月数÷480)×支給率
支給率は対象となる方の所得によって変化しますが、所得が増えるほど給付額が減るようになっています。
また前述したように、「5,310円」という数字は物価変動に応じて毎年度改定されます。
給付金の額が改定される場合
公的年金の受給額が一定でないかぎり、所得額が変動するのはあり得る話ですが、毎月の変動に合わせて給付額も改定していては手続きも事務処理も大変です。
そのため、補足的年金生活者支援給付金を受けている方の前年の所得額に変更があった場合は、給付額の改定は10月から行うこととされています。
障害者への給付金:障害年金生活者支援給付金
続いて、障害のある方への給付金である障害年金生活者支援給付金です。
支給要件(対象者)
障害年金生活者支援給付金を受け取るためには、次のすべての要件を満たす必要があります。
- 障害基礎年金の受給者であること
- 前年の所得が「472万1,000円+扶養親族の数×48万円以下(変動あり)」であること
①は特に問題はないと思うので、②について詳しく見ていきます。
前年の所得には、障害年金や遺族年金といった非課税収入は含みません。
また、所得の上限が扶養親族の数によって変動しますが、「48万円」という数字も誰が扶養親族かによって次のようになります。
- 同一生計配偶者のうち70歳以上の者または老人扶養親族の場合 : 58万円
- 特定扶養親族または16歳以上19歳未満の扶養親族 : 63万円
給付額
障害年金生活者支援給付金の給付額(月額)は次のとおりです。
- 障害等級2級の方 : 5,310円(月額)
- 障害等級1級の方 : 6,638円(月額)
これまでと同様、給付額は物価変動に応じて若干の変動がありますが、老齢年金生活者支援給付金と比較するとシンプルでわかりやすいかと思います。
給付金の額が改定される場合
障害基礎年金は、障害の程度が重くなったり軽くなったりすると等級が変わり、受け取る年金額も変わります。
その変動に合わせて障害年金生活者支援給付金の額も改定されることになりますが、その時期は障害基礎年金の額が改定された月の翌月からとなっています。
遺族への給付金:遺族年金生活者給付金
最後は、遺族の方へ向けた給付金である遺族年金生活者支援給付金です。
支給要件(対象者)
遺族年金生活者支援給付金を受け取るためには、次のすべての要件を満たす必要があります。
- 遺族基礎年金の受給者であること
- 前年の所得が「472万1,000円+扶養親族の数×48万円以下(変動あり)」であること
①は文言どおりですし、②についても障害年金生活者支援給付金の要件とまったく同じ内容となっています。
給付額
遺族年金生活者支援給付金の給付額(月額)は一律5,310円(月額)です(物価変動に応じて毎年度改定)。
ただし、二人以上の子供が遺族基礎年金を受給している場合は、5,310円を子供の数で割った額がそれぞれに支給されます。
給付金の額が改定される場合
遺族基礎年金は、受給権を持っている子供の数が変動した場合に額が改定されます。
その変動に合わせて遺族年金生活者支援給付金の額も改定されることになりますが、その時期は対象となる子供の数に変動があった月の翌月からとなっています。
まとめ
年金生活者支援給付金は、年金生活をされている方にとっては大切なものですが、まだまだ制度が知られていなかったり理解されていなかったりします。
ご自身だけでなくぜひご家族や身の周りの方にも伝えていただき、制度を活用していただきたいなと思います。