こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
社会保険は、ケガをしたときなどに病院での負担が軽減されたり、将来年金を受け取れたりと「何かがあったときに生活を守ってくれる」保険です。
ところが会社の実務レベルでみると「手続きが複雑」「要件がよくわからない」「保険料の計算が面倒」など、なにかと厄介者扱いされがち。
そんな厄介なもののひとつが「どの従業員が被保険者に該当するか」の判断ではないでしょうか。
そこでこの記事では、「誰が、どのような場合に社会保険の被保険者になるのか(ならないのか)」について、具体例も用いながら詳しく解説していきます。
被保険者の定義
まず最初に、「被保険者とはどんな人のことをいうのか」について法律の条文を確認します。
<健康保険法第3条>
この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。
e-Gov「健康保険法」より引用
<厚生年金保険法第9条、第10条>
適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
適用事業所以外の事業所 に使用される70歳未満の者は、厚生労働大臣の認可を受けて、厚生年金保険の被保険者となることができる。
e-Gov「厚生年金保険法」より引用
おっしゃるとおりです。なので、今から詳しく解説していきますね。
健康保険も厚生年金保険も、共通しているのは「適用事業所で働く人は(原則として)被保険者になる」ということです。
適用事業所 とは、簡単にいうと「健康保険や厚生年金保険が適用される会社」のこと。
つまり「会社として健康保険や厚生年金保険が適用されるなら、そこで働く人は被保険者になる」というのが大原則です。
「適用事業所」の部分を除くと、健康保険と厚生年金保険では若干の違いがありますので、個別に見ていきます。
適用事業所についてもっと知りたい場合は、次の記事で詳細に解説していますので参考になさってください。
健康保険
健康保険の被保険者となるのは、次の2つの場合です。
- 適用事業所に使用される者
- 任意継続被保険者
ひとつずつ見ていきましょう。
①適用事業所に使用される者
①の「適用事業所に使用される者」については、文面だけだと「会社で働いている間はずっと健康保険の被保険者」とも読み取れます。
ですが、実は医療保険制度は「75歳になったら全員後期高齢者医療制度の被保険者になる」というルールがあり、たとえ同じ会社で働き続けていても75歳になったら健康保険の被保険者ではなくなってしまうのです。
ちなみに「75歳 になったら全員が 後期高齢者医療制度 の被保険者になる」ということについては、次の図をみてください。
図のように、会社勤めでない方の多くは国民健康保険に加入していらっしゃいますが、そのような方も含め75歳になったら国民全員が後期高齢者医療制度の被保険者になる、とご理解ください。
②任意継続被保険者
次に②の 任意継続被保険者 は、会社をやめたあとも一定期間自分の意思(任意)で退職する前の保険に継続して加入している被保険者のことです。
こちらについては要件や加入できる期間などが細かく定められており、以下の記事で詳しく解説していますので、興味のある方は参考になさってください。
厚生年金保険
厚生年金保険の被保険者となるのは、次の場合です。
- 適用事業所に使用される70歳未満の者
- 適用事業所以外に使用される70歳未満の者で、厚生労働大臣の認可を受けた者
こちらもひとつずつ見ていきます。
① 適用事業所 に使用される70歳未満の者
健康保険とは異なり、厚生年金保険は「70歳未満」と条文にも明記されていますのでわかりやすいでしょう。
厚生年金保険は(健康保険も)「適用事業所に使用される」という条件を満たせば被保険者になることができます。
ということは、たとえ16歳であっても適用事業所に入社すれば厚生年金保険等に加入することができる、ということになります。
② 適用事業所以外に使用される70歳未満の者で、厚生労働大臣の認可を受けた者
②については、従業員の方がご自身で「入りたい」と考え、手続きをするものですのでこの記事では解説を省略させていただきます。
短時間で働く方の場合
ここまでは「適用事業所で働いている場合は被保険者になる」という大原則を見てきました。
しかし実際には、雇用形態が多様化するなかで適用事業所で働いていても被保険者になる場合・ならない場合があります。
次からは特に、通常よりも短い時間で働く方について被保険者になるかどうかを見ていきます。
短時間正社員
短時間正社員とは、他のフルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員のことを言います。
労働時間はフルタイムの正社員よりも短いですが、あとでお話する短時間労働者とは異なりあくまでも正社員であることが大きなポイントです。
短時間正社員の場合、次のすべての要件を満たせば被保険者として取り扱われます。
- 労働契約、就業規則及び給与規程等に、短時間正社員に係る規定がある
- 期間の定めのない労働契約が締結されている
- 給与規程等における、時間当たりの基本給 及び 賞与・退職金等の算定方法等 が同一事業所に雇用される同種フルタイムの正規型の労働者と同等である場合であって、かつ、就労実態も当該諸規程に則したものとなっている
ちょっとわかりにくい表現なので噛み砕いてみると…。
- 会社で短時間正社員制度を定め、書面にしている
- 無期雇用契約である
- フルタイムの正社員の給与を時給換算したものと同程度の給与が、書面にも明記され実際にも支払われている
という場合には、短時間正社員として社会保険の被保険者になります。
短時間労働者
短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者(いわゆる正社員)のものと比べて短い労働者のことを言います。
「短時間労働者」という言葉だけでみると、パート・アルバイト・嘱託といった呼び名は関係なく、また「30時間未満」といったような具体的な労働時間数の要件もありません。
しかし「社会保険に加入できるかどうか」の観点から見ると少し要件が複雑化します。
段階を追って要件を見ていくことになりますので、しっかりついてきてください。
1段階目:「4分の3基準」を満たしているか
いわゆる「4分の3基準」は 平成28年 に明確化されたものなので、ニュースなどで耳にした方もいらっしゃるかもしれません。
「4分の3基準」とは、1週間の所定労働時間 および 1ヶ月の所定労働日数 が、通常の労働者と比べて4分の3以上か未満かという基準のことをいいます。
そして、4分の3以上であれば、その時点で社会保険の被保険者となります。
反対に4分の3未満であれば、さらに細かい要件を満たさなければ被保険者とならないため、次の段階に進みます。
2段階目:5つの要件をすべて満たしているか
「4分の3基準」を満たしていないからといって、被保険者にならないわけではないのですが、その場合には次の 5つ の要件をすべて満たさなければなりません。
言い換えると、5つのうち1つでも要件を満たさなければ、被保険者とはならないということです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
- 報酬の月額が8万8000円以上であること
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所) あるいは 常時500人以下の企業であって労使合意に基づき申出をした法人または個人の事務所 に勤めていること
4分の3基準を満たしていない短時間労働者については、2022年10月から適用範囲が拡大され、常時101人以上の被保険者がいる事業所であれば被保険者となることができます。
詳細は以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
短時間で働く方まとめ
ここまで「通常の労働者よりも短時間で働く方が被保険者に該当するかどうか」について見てきましたが、それだけでもなかなかのボリュームでしたので、まとめとして表を掲載しておきます。
こんな場合はどうなる?
ここからは「被保険者になるの?ならないの?」という判断が難しいケースを具体的に取り上げていきます。
事例 | 判断 |
① 法人の代表者等 | 法人の代表者(いわゆる社長)や理事、監事、取締役などであっても、法人から労務の対償として報酬を受けている場合は被保険者になります。 (反対に、いわゆる個人事業主は事業所に使用される者には該当しないので被保険者にはなりません。) |
② 就職予定者 | 最高学年の在学者で、卒業後に就職予定の会社で職業実習を受けている場合は被保険者になります。 |
③ 試用期間中の方 | たとえ試用期間であっても、最初に雇用された日から被保険者になります。 |
④ 休職中の方 | 休職中も雇用関係は続くので被保険者のままです。 |
⑤ 外国人の方 | 適法に就労しており、会社と実態的かつ常用的な使用関係がある場合は、国籍を問わず被保険者になります。 |
この中で特に注意すべき事例を取り上げます。
試用期間中の方
「試用期間中は社会保険などには入らなくてもよいのでは?」というような風潮は、今でも少なからず残っています。
しかし、たとえ試用期間中であっても「実質的には雇用関係に入っている」ということであれば、最初に雇用された日から被保険者となります。
外国人の方
近年、外国人材の受け入れが拡大してきており、決して他人ごとではなくなってきています。
社会保険の適用については国籍によって対応が異なることはありませんので、日本人と同様の要件を満たすのであれば正しく社会保険に加入する必要があります。
そもそも被保険者になれない場合
いよいよ最後になりました。
これまでずっと「適用事業所で働く人は(原則として)被保険者」とお伝えしてきましたが、たとえ適用事業所で働いていたとしても被保険者になれない場合があります。
これを「社会保険の適用が除外される」という意味で適用除外と言います。
なぜ適用が除外されるかというと、保険料の徴収や手続き等が困難であったり、他の医療保険制度の適用を受けることができたりする(健康保険の場合)ためです。
社会保険の適用が除外される場合を以下にまとめました。
健康保険・厚生年金保険共通 | |
---|---|
適用除外者 | 例外(被保険者となる場合) |
①臨時に使用される者であって次に掲げるもの a)日々雇い入れられる者 b)2ヶ月以内の期間を定めて使用される者 |
a)の者が 1ヶ月 を超えて b)の者が 所定の期間 を超えて 引き続き使用されるに至った場合は、その日から被保険者となる。 |
②所在地が一定しない事業所に使用される者 | (例外なし) |
③季節的業務に使用される者 | 継続して 4か月 を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる。 |
④臨時的事業の事業所に使用される者 | 継続して 6か月 を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる。 |
⑤4分の3基準を満たさない短時間労働者であって、5つの要件のいずれか1つでも満たさない者(先述) | (例外なし) |
健康保険のみ | |
適用除外者 | 例外(被保険者となる場合) |
⑥国民健康保険組合の事業所に使用される者 | (例外なし→国民健康保険に加入) |
⑦健康保険の保険者 または 共済組合 の承認を受けて国民健康保険へ加入した者 | (例外なし→国民健康保険に加入) |
⑧後期高齢者医療の被保険者等 | (例外なし→後期高齢者高齢者医療制度に加入) |
⑨船員保険の被保険者 | 船員保険の疾病任意継続被保険者 |
細かい部分も多いですが「適用事業所で働いているからといって絶対に被保険者になるというわけではないんだな」ということを頭の片隅に置いておいていただければけっこうです。
まとめ
社会保険の適用については、まず適用事業所という「会社単位」で考え、そのあと 「人単位」で考える、というように2段階で見ていきます。
今回の「被保険者に該当するかどうか」というのは人単位のお話でした。
社会保険料の負担は会社も従業員も年々大きくなってきています。
だからこそ、正しい知識をもって判断していただければと思います。
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