こんにちは、 社会保険労務士の 渡邊 由佳 (@officeyuka) です。
「働き方改革」では、多くの法改正や新しい制度の創設が行われ、それらが一体となって改革が進んでいきますが、正直なところ「どこから手をつけていいかわからない」「そもそも何が変わるのかもわからない」というのが本音ではないでしょうか。
そこで当ブログでは、働き方改革に関係する情報を一つずつ、わかりやすく解説していこうと思います。
まず今回は、2019年4月から実施され、対応が必須となる「年5日の有給休暇取得義務化」について、もっとも基本的な部分を解説します。
年次有給休暇取得の現状
今回改正される内容を見る前に、年次有給休暇取得の現状を少しだけ。
まずはこちらのグラフをご覧ください。
日本における年次有給休暇の取得状況ですが、ここ10数年は取得率が5割を下回っていました。
最新の2017年に51.1%とやっと5割を超えたものの、他国と比べてもまだまだ低いのが現実です。
一方、長時間労働による健康被害や、働く側のニーズの多様化によって、年次有給休暇の取得促進は国全体の課題となっています。
そこで今回の法改正が実施されることになった、というわけなんですね。
年5日の年次有給休暇の取得が義務化
いよいよここから本題に入ります。
年次有給休暇ですが、2019年4月から1人あたり年5日の年次有給休暇を取得させることが義務となりました。
これまでは、労働者に年次有給休暇を取得する権利は与えられていても、年次有給休暇そのものを与える義務は使用者側にはありませんでした。
この点を大きく変更し、罰則付きで年5日の年次有給休暇の取得を義務づけたのです。
対象者
年5日の年次有給休暇の取得が義務づけられる対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者です。
[prpsay img=”https://officeyuka.com/wp-content/uploads/2019/01/ojisan3_question-2.png” name=””]で、年次有給休暇が10日以上もらえる人ってどんな人なの?[/prpsay]
年次有給休暇は原則として、労働者が ①雇入れの日から6ヶ月間継続勤務 し、②その6ヶ月間の全労働日のうち8割以上出勤 した場合には10日与えなければならないとされています。
また、「比例付与」と呼ばれる制度により、1週間の労働日数や労働時間が一定以下の場合でも年次有給休暇は付与されますが、「比例」の言葉どおり条件によって付与される日数が異なります。
この「比例付与」に該当する労働者であっても、年次有給休暇が10日以上付与されていれば年5日の取得義務の対象者となります。
時季指定
年次有給休暇は、原則として労働者が指定する時季に与えなければいけないとされています。
わかりやすく言うと、労働者が「◯月△日に休みます」と年次有給休暇を取得する時季を申し出ることで、年次有給休暇が成立します。
しかし、これだと「みんな働いてるし…」「上司に言い出しにくい…」などの理由で、年次有給休暇の取得が進まない現状があり、時季指定について細かく規定が設けられました。
年5日の時季指定義務
使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得さなければならなくなりました。
「年次有給休暇を付与した日」のことを「基準日」と言いますが、これは原則として以下のようになります。
- 最初は、6ヶ月経過日
- その後は、1年ごとに1年経過日
[prpsay img=”https://officeyuka.com/wp-content/uploads/2019/01/ojisan3_question-2.png” name=””]??何言ってるのかわかりません![/prpsay]
というわけで、わかりやすく図で説明します。
たとえば、2019年4月1日に入社した労働者の場合、基準日と時期指定義務は以下のようになります。
繰り返しになりますが、雇入れから6ヶ月経過すれば原則として年次有給休暇は発生しますから、その日がまず「基準日」になります。
そして、その基準日から1年以内に5日の年次有給休暇を付与しなければならない、とうことです。
さらに、1年経過すれば次の基準日(年次有給休暇を付与する日)がやってきますから、その日から1年以内に5日の年次有給休暇を付与…という風に続いていくことになります。
時季指定の方法
次に、時期指定の方法です。
使用者は、時季指定にあたっては、その時季について労働者の意見を聴取しなければなりません(義務)。また、できるかぎり労働者の希望に沿った取得時季となるよう、聴取した意見を尊重するように努めなければなりません(努力義務)。
これを具体的な手順で説明します。
まず、使用者が労働者に対して「いつ年次有給休暇を取得したいですか?」というように取得したい時季の聴き取りを行います。
聴き取りの方法は、面談や年次有給休暇取得計画表、メールや専用システムを利用するなど、任意の方法でかまいません。
その後、労働者の意見を踏まえて使用者が「◯月△日に休んでください」と年次有給休暇の時季を指定します。
このとき、できるかぎり労働者の意見を尊重することが大切です。
時季指定が不要な場合
時季指定は、必ずしなければならないものではありません。
すでに5日以上の年次有給休暇を請求していたり、取得している労働者に対しては、使用者は時季指定をする必要はありません(することもできません)。
要するに、この制度の趣旨は「労働者に確実に年次有給休暇を取得してもらうこと」なわけですから、どんな形であれ労働者が年次有給休暇を取得できていれば良い、ということです。
ここでいったん、労働者に年5日の年次有給休暇を取得させる方法をまとめておきます。
- 使用者からの時季指定
- 労働者みずからの請求・取得
- 労使協定で計画的に年次有給休暇の取得日を定める「計画年休」(計画年休についてはこちらも参考にしてください)
年次有給休暇管理簿
年次有給休暇の取得が義務づけられたことにより、あわせて年次有給休暇管理簿の作成も義務づけられました。
年次有給休暇管理簿に記載しなければならない事項は以下の3つです。
- 時季
- 日数
- 基準日(年次有給休暇が発生した日)
これを労働者ごとに明らかにし、年次有給休暇を与えた期間中とその期間が終わってから3年間保存しなければなりません。
ただし、年次有給休暇管理簿だけを単独で作成する必要はなく、労働者名簿や賃金台帳と合わせて作成してもかまいません(保存期間は同じです)。
就業規則への記載
[prpsay img=”https://officeyuka.com/wp-content/uploads/2019/01/ojisan1_cry.png” name=””]まだ何かやることがあるの…[/prpsay]
もう少しです、頑張って!
年次有給休暇は「休暇」に関する事項です。
この「休暇」に関する事項は就業規則の絶対的記載事項(必ず書かなければいけないこと)となっているため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、就業規則に記載しなければなりません。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する場合に作成が義務づけられています。
「年次有給休暇の何について記載しなければならないのか?」については、厚生労働省ホームページに「モデル就業規則」が掲載されていますので、参考にしてみてください。
罰則
これまでは、たとえ労働者が年次有給休暇を取得していなくても罰則はありませんでした。しかし2019年4月からは、以下の場合には罰則が科されることがあります。
- 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合
- 使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合
- 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合
「罰則」という実効性を持たせてまでこの制度が実施されるということは、それぐらい「労働者に確実に年次有給休暇を取得させてくださいね」という姿勢の現れだと思います。
まとめ
今回は、働き方改革の目玉でもある「年5日の有給休暇取得義務化」について、もっとも基本的な部分を解説してきました。今後は、例外や「どうやったら管理がしやすくなるのか?」といった方法もお伝えしていこうと思っています。
年次有給休暇の取得は、労働者の心身の疲労の回復や生産性の向上にとってとても大切なこと。その環境整備にこの記事がお役に立てば嬉しく思います。
参考文献:厚生労働省リーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得」
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